腰仙椎硬膜外麻酔

硬膜外麻酔とは

脊髄を包んでいる硬膜の外にある硬膜外腔に局所麻酔を注射する方法を、硬膜外麻酔といいます。

硬膜外麻酔を注射する部位の図解

注射をする部位により、腰仙椎硬膜外麻酔(第7腰椎と仙椎の間)、仙尾椎硬膜外麻酔(仙椎と尾椎の間)に分かれます。手術をする部位によって使い分けます。

今回行った腰仙椎硬膜外麻酔は、主に下腹部、後肢、お尻周りの手術に適用されます。人間の無痛分娩も同様の麻酔で行いますが、人間と違って動物の場合はじっとできないので全身麻酔と併用して行います。

硬膜外麻酔の注射をするためにペンで目印をつけている様子

先日、大腿骨頭骨頸切除(後ろ足の手術)をしたわんちゃんです。

毛刈りをし、目印となる骨にペンで印をつけ、消毒をし、硬膜外に局所麻酔薬を注射します。(写真撮影のために非滅菌環境で注射をするフリをしています。実際に注射をする際は手術と同様の滅菌環境にて行います。)

硬膜外麻酔のメリット

全身麻酔下でやるなら局所麻酔は必要ないのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はただ全身麻酔をかけて眠らせるだけでは鎮痛効果はほとんど得られません。

ただ寝ているだけで、痛みは感じているのです。

そこで様々な経路の鎮痛剤を併用しながら手術を行う(マルチモーダル鎮痛)のですが、全身に作用する鎮痛剤と違い、局所麻酔は痛みの伝達経路を完全にブロックするため、非常に理想的な鎮痛処置といえます。また、局所に作用する分副作用も少ないのです。

痛みがなければ、全身麻酔の使用量も極限まで減らすことができ、全身麻酔のリスクを減らすことができます。

その中でも特に硬膜外麻酔は鎮痛効果が高いです。術後の動物の表情を見ていると、何もなかったかのような表情をしていることが多いです。

硬膜外麻酔のデメリット

硬膜外麻酔の合併症として、徐脈、血圧低下、脊髄神経誤穿刺による脊髄損傷、局所麻酔薬の血管内あるいは硬膜内誤投与などが挙げられます。徐脈や血圧低下は予期せず起こることもありますが、適切に対処すれば大きな問題になることは少ないです。

また、そもそも硬膜外麻酔を実施している施設が少ないこともデメリットとして挙げられます。

なぜ硬膜外麻酔を行う施設が少ないかというと、技術的に難しいパターンと、動物の痛みは軽視されやすく、全身麻酔の濃度を上げれば手術自体はできるためそもそも実施しようとしないパターンがあります。

まとめ

硬膜外麻酔は非常にメリットの多い麻酔方法です。

当院ではただ外科手術をするだけでなく、いかに痛みの少ない手術および術後を迎えられるかということを常に考えています。

硬膜外麻酔が適応できない部位は他の局所麻酔方法を組み合わせて手術を行っています。

痛みの少ない手術に興味のある方はぜひ一度当院にお越しください。