犬の乳腺腫瘍の片側全摘出術について|どのような手術か獣医師が詳しく解説

犬の乳腺腫瘍の片側全摘出術について|どのような手術か獣医師が詳しく解説

犬も人と同様に、中年齢以降になると乳腺腫瘍になることがあります。
犬の乳腺腫瘍には良性のものと悪性のものがあり、約半数が悪性腫瘍です。

しかし、犬の乳腺腫瘍はおおよそ75%が手術で完治することが出来るとも言われています。
腫瘍の早期発見と適切な手術を実施することで、愛犬の健康を守り、一緒に過ごす時間を伸ばすことが出来るでしょう。

この記事では、犬の乳腺腫瘍の手術法の中でも「片側全摘出術」について解説いたします。
ぜひ、最後までお読みいただき、犬の乳腺腫瘍の際の手術の選択肢について知識を深めていきましょう。

砂浜をかける柴犬

犬の乳腺腫瘍とは

犬には左右にそれぞれ5対、計10個の乳腺(第1乳腺〜第5乳腺)があります。
犬の乳腺腫瘍は、乳腺に単一もしくは多発性にしこりが発生する腫瘍です。
未避妊の犬の約4頭に1頭に発生を認めるという非常に身近な腫瘍です。
犬の乳腺腫瘍の主な要因はホルモンと言われています。

犬の乳腺腫瘍は、初期の段階ではほとんど症状は出ません。
しかし悪性であったり進行すると、

  • 腫瘍の増大
  • 腫瘍周囲の炎症や出血
  • 腫瘍の自壊

といった症状が出てくることもあります。

犬の乳腺腫瘍が良性なのか悪性なのかは、臨床症状からある程度の予測をつけることはできます。
しかし、確定診断をするには、手術によって腫瘍を切除し、病理診断を実施することが必要です。

犬の乳腺とリンパ節について

犬の乳腺はリンパ系や血管系と交通しているため、腫瘍が以下のような場所に転移しやすくなっています。

  • 他の乳腺
  • リンパ節
  • 肺を中心としたその他の臓器

犬の乳腺の近くにある代表的なリンパ節は、脇の下に存在する腋窩リンパ節、股付近に存在する鼠径リンパ節といったものです。
第1〜3乳腺にできた腫瘍は腋窩リンパ節、第3〜5乳腺にできた腫瘍は鼠径リンパ節にそれぞれ転移しやすいとされています。
第3乳腺付近に腫瘍が形成された場合には、どちらにも転移する可能性があるということですね。

エリザベスカラーをつけたダックスフント

犬の乳腺腫瘍の手術の選択肢

乳腺腫瘍の治療の第一選択は、基本的に外科手術になります。
乳腺腫瘍の手術は、腫瘍の状態や場所により、以下のような手術方法が選択されます。

  • 単一切除
  • 領域切除
  • 片側乳腺全切除
  • 両側乳腺全切除

腫瘍の部分だけを切除するのか、広めに複数の乳腺を切除をするのかといった違いですね。
犬の乳腺腫瘍をどの術式で行うかは、以下のようなことを配慮したうえで、総合的に判断することが重要です。

  • 腫瘍の位置や状態
  • リンパ節への転移の有無
  • 犬の年齢
  • 治療中の病気
  • 飼い主様の希望

また未避妊の雌犬の場合は、以下のような病気を防ぐために乳腺腫瘍の手術と同時に避妊手術を実施することがおすすめです。

  • 乳腺腫瘍の新たな発生
  • 卵巣疾患(卵巣腫瘍など)
  • 子宮疾患(子宮蓄膿症など)

片側全摘出術はどんな手術?

犬の乳腺の片側全摘出術とは、腫瘍のある側の乳腺を全て摘出する手術となります。
片側全摘出術が適応となる場合は以下のような場合です。

  • 乳腺腫瘍が片側に多発している場合
  • 単一の腫瘍だが第3乳腺付近に認められる場合
  • 左右の乳腺に腫瘍を認めるが、最初に片側の乳腺から手術を行う場合

一度に両側の乳腺の切除を行うと、皮膚を縫い合わせる際に皮膚が足りなくなってしまうことがあります。
その場合はまず片側の乳腺の切除を行い、後日もう片側の手術を行う場合もあります。
犬の乳腺腫瘍の片側全摘出術には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

メリット

片側全摘出術のメリットは、一度に広範囲の乳腺を摘出出来ることです。
ほかの乳腺が腫瘍になることを防ぐことができるということですね。

また、摘出した乳腺やリンパ節を病理診断によって病変があるかどうか調べることも出来ます。
病変をいち早く見つけられれば、追加治療を早期に行うことが出来ますね。

デメリット

広い範囲を切除するので、手術時間が長くなるというデメリットがあります。
また傷口が大きくなるため、術後の回復に時間がかかったり、傷口が開くリスクが上がったりする可能性も。

手術後はどんなことに気をつけたらいい?

犬の乳腺腫瘍の片側全摘出術を実施した後は、術後のケアも大事です。
乳腺腫瘍の手術後は、

  • 乳腺腫瘍の再発や転移
  • 残っている乳腺の新たな病変の形成
  • 傷口の感染

などが起きないか見るために、定期的に通院して確認する必要があります。
また、手術で摘出した乳腺とリンパ節は、病理検査に出すこともあります。

病理検査の結果によっては、抗がん剤治療が追加されることもあるでしょう。

術後着を着て体をなめる柴犬

最後に

犬の乳腺腫瘍の片側全摘出術は、犬の乳腺腫瘍に対する治療として選択されることも多く、非常に重要な手術方法です。
腫瘍の状態を的確に評価し、最適な手術方法を選択すれば、良好な予後に繋げることが出来ます。
愛犬に手術が必要になったら、とても不安な気持ちになると思います。
しかし、飼い主様と獣医師が連携することで最良の治療を行うことが可能です。

当院では飼い主様との丁寧なやりとりを元に、その子にとって最善の選択肢をご提案いたします。
愛犬にしこりを見つけた際にはぜひ、早めに当院にご相談ください。

熊本県玉名市六田
はやの動物病院