心タンポナーデに対する心膜切除

心タンポナーデとは

心臓の周りには薄い膜があり、正常でも心臓とその膜の間には微量の液体(心嚢水)がありますが、

その液体がなんらかの原因で増加し、心臓が圧迫された状態を「心タンポナーデ」といいます。

心臓周囲に心囊水が貯留して心タンポナーデを起こしている図解

緊急疾患の一つとされ、心臓の動きが制限されるため、全身循環が悪化し、低血圧やショック状態になることがあります。

症状

ふらつき、失神、虚脱など低血圧に起因するものや、呼吸が荒く肩で息をするといった症状が現れます。

また、口の中の粘膜や下が真っ白になります。

循環不全による肺水腫や胸水貯留がある場合、粘膜色が紫色になっていることもあります。

診断

超音波検査やレントゲン検査で診断ができます。

レントゲン検査では丸く拡張した心陰影が認められます。

胸部レントゲンで丸く心臓が拡張している様子

超音波検査では、心嚢水が著増し、心臓(特に右心房)が圧迫されている様子がわかります。

心臓エコーで心囊水が貯留して右心房を圧迫している様子

原因

1.特発性:原因が特にないもの。多くが特発性とされます。

2.腫瘍性:心膜や心臓に腫瘍ができ、そこから出血することで心嚢水が増加します。

3.左房破裂:小型犬に多い僧帽弁閉鎖不全により、左心房に強い圧がかかることで左房が破裂し、心膜内に血液が溜まります。

治療

1.心膜穿刺

まずは心膜に針を刺し、貯留した心嚢水を抜去することで心臓の圧迫を解除します。

心タンポナーデの場合、多くの動物はぐったりしているため、鎮静や麻酔なしで実施できます。

特発性の場合は一回の穿刺で再発せず完治することもありますが、再発することも多いです。

この先手術写真があります。苦手な方はご注意ください。

2.心膜切除

特発性だが心膜穿刺をしても再発する場合、あるいは腫瘍性で再発の可能性が高い場合は、心膜切除を行います。

手術で心膜切除をおこなっている様子

先日当院で心膜切除を行った症例です。ピンセットで示している場所が心膜を切除したラインです。

切除ラインの上部には心膜が残っていますが、ここには神経が走っているため切除ができません。

しかし、心膜の大半を切除するため心臓を圧迫することはなくなります。

手術で切除した心膜の写真

切除した心膜は病理検査に出します。本症例は腫瘍性でしたが、心臓内にまで腫瘍が浸潤しており、腫瘍自体の切除は不可能でした。

しかし、心膜を切除することで余命はかなり長くなります。

腫瘍があっても心臓さえしっかりと動いていれば元気に過ごせることが多いです。

手術時間は約1時間、入院は2日~3日程度です。

3.心臓病による左房破裂の場合、心膜穿刺後は原因となっている心臓病の内科的治療をしていくことになります。

早期に診断をし、適切な治療をしなければ命を落としてしまう病気です。

近くの病院では検査もせず薬を出されたが苦しそう、あるいは診断はついたものの何度も針を刺して水を抜いているという方はお早めに当院にご相談ください。