会陰ヘルニア
会陰ヘルニアとは
ヘルニアと聞くと多くの方が椎間板ヘルニアを想像されるかと思いますが、医学的にヘルニアというのは
組織が正常な場所から違う場所に移動してしまうことを指します。
椎間板ヘルニアは椎間板物質が異常な場所に飛び出した状態、横隔膜ヘルニアは横隔膜に穴が開いて腸が正常な場所(腹腔内)から異常な場所(胸腔内)に飛び出した状態です。
では会陰とはどこかというと、簡単に言うとお尻周りです。
会陰ヘルニアは肛門横の筋肉がなんらかの原因で細くなってしまい、その隙間から皮膚の下に腸や膀胱が逸脱してしまう病気です。

筋肉の隙間に直腸が入り込むことが多く、直腸が蛇行してしまうためそこで便が詰まり、便秘症状を呈します。見た目としては、肛門の横がぷっくり膨れたように見えます。
膀胱が入り込んでしまった場合、尿道も圧迫されてしまい尿道閉塞を起こし、急性腎不全となってしまうため緊急疾患となります。
原因
会陰ヘルニアの原因が筋肉が薄くなってしまうことですが、ではなぜ筋肉が薄くなってしまうのか?
実はその原因は男性ホルモンによるものとされています。男性ホルモンに長期間さらされることによって、筋肉が薄くなる。ということは未去勢の中高齢の犬に多いのです。
そのため、会陰ヘルニアの手術時には去勢手術も同時に行うことになります。
片方の筋肉だけが薄くなることはないので、ヘルニアを起こしている反対側も直腸検査によるチェックが必要です。
治療
治療方法は基本的に外科手術になります。筋肉の隙間をなんらかの形で埋めてあげる必要があります。
しかし、他の持病により麻酔がかけられない(重度の心臓病や腎臓病など)場合は、便秘解消のために緩下剤(下剤)を使用したり、消化しやすい食事を使用したりして経過を見ることもあります。
ただし上述のように膀胱が入り込んでしまうと命に関わるため、手術を余儀なくされることもあります。
手術
当院で行う手術は、3つに分かれます。
1.去勢手術
これ以上筋肉が薄くなってしまわないように、まず最初に去勢手術(睾丸摘出)を行います。
2.結腸および精管固定
会陰ヘルニアの再発を防ぐため、結腸と精管をそれぞれお腹の中に固定します。精管を固定することでつながっている膀胱の脱出も防ぐことができます。
膀胱を直接固定してもよいのですが、膀胱はある程度動けるようにしておかないと頻尿などの症状につながってしまうおそれがあるため、精管を固定することで間接的に膀胱を固定することがすすめられます。
3.ヘルニア輪の閉鎖(手術写真あり。苦手な方はご注意ください)

図の「ヘルニア孔」と書いてあるところが、筋肉の隙間です。
ここを埋める方法はいくつかありますが、本症例では溶けない糸(ナイロン糸)を用いて、この穴に格子状の壁を作っていきます。

靭帯と肛門周囲の筋肉に糸をかけたところ。

全て結紮します。強く結びすぎると肛門が引っ張られ、脱腸やしぶりの原因となるため適度な強度になるように結紮します。
手術時間は約30分でした。本症例は以前他院で左側のヘルニア手術と去勢をされていましたので、右側のみの手術で終了となりました。
ヘルニア輪が大きい場合には、浅殿筋や内閉鎖筋を利用することもありますが、本症例ではそこまでの術式を必要としませんでした。
合併症
手術の合併症としては、ヘルニアの再発、反対側のヘルニア発症、直腸脱(いわゆる脱腸)、結紮糸の感染などがあります。
会陰部の筋肉は左右とも薄くなっていることがほとんどなので、麻酔リスクが高くなければ基本的に両側同時に手術をしているため反対側の発症リスクは低いといえます。
その際、それまでヘルニア部に逃げていた圧力が肛門にかかるため、直腸脱を起こすことがあると言われますが、当院のように結腸固定をしていればその可能性も低くなります。
結紮糸の感染は、定法通り清潔な手術を心がけていれば基本的には起こりません。
会陰ヘルニアは様々な術式が考案されており、症例に合わせて柔軟に対応できる知識・技術が大切となります。