口腔鼻腔瘻に対する歯肉粘膜フラップ術
口腔鼻腔瘻とは
口腔鼻腔瘻とは、口(口腔)と鼻(鼻腔)の間の骨が溶けて貫通してしまう病気です。
原因としては歯周病がほとんどです。
歯周病は世界一多い感染症としてギネスに認定されるほど有病率の高い病気です。
わんちゃん猫ちゃんに関して述べると、2歳以上の80%以上が歯周病に罹患していると言われています。
歯周病は歯茎や骨を溶かしてしまうので、下顎であれば病的骨折することもありますし、上顎であれば本題のように上顎骨を溶かして口と鼻が貫通してしまうことも多々あります。
犬や猫は人と違って口腔内環境がアルカリ性のため、虫歯にはなりにくいのですが歯石が非常につきやすく、歯垢が歯石に変化するまでわずか3日と言われています(人は虫歯になりやすいですが、歯垢が歯石に変わるまで21日ほどかかると言われています)。

一度ついた歯石は歯磨きでは取れません。全身麻酔下での歯石取りが必要になります。
症状
歯周病そのものの症状としては、口臭や食べる際の違和感、痛みなどが挙げられます。
歯周病が進行して口腔鼻腔瘻を形成してしまうと、唾液や飲食物がその穴から鼻腔へと入り、慢性の鼻汁や鼻づまり、鼻血といった症状が認められるようになります。
口腔鼻腔瘻を形成するレベルになると口臭はかなり強烈なものとなります。
犬種としてはダックスフンド、トイプードル、ミニチュアシュナウザーなどが多いですが、全犬種(特に小型犬は)発症する可能性が高いです。
口腔鼻腔瘻の可能性を指摘されず、風邪でしょうと言われ慢性的に抗生剤を投与されるも全然治らず、そうしている間にどんどん穴が広がってしまうケースも多いです。
外科的治療
歯周病が酷く、くしゃみや鼻水といった症状があり、口腔鼻腔瘻が疑われる場合、治療方法は外科手術がメインとなります(もちろん他の感染症などが原因のこともありますが)。
開いてしまった穴を薬で埋めるなんてできないということは容易に想像がつくかと思います。
この先手術写真があります。ご注意ください。
まず全身麻酔下である程度の歯石を取った後、瘻管の有無を確認します。

歯と歯茎の間に細い針を入れ、生理食塩水を流します。
本来は鼻と口の間には骨(口蓋骨)があるため水が鼻に流れることはありませんが、上の写真を見ていただくと鼻から血混じりの液体が流れ出ている様子がわかるかと思います。
この時点で口腔鼻腔瘻の確定診断となります。
口腔鼻腔瘻は犬歯で最も生じやすいのですが、本症例は臼歯にも発生していました。
歯があると縫合ができないため、鼻腔瘻のある歯は抜歯をします。抜歯後、そのまま歯茎を縫い合わせることは物理的にできないので、歯肉粘膜フラップというものを作成します。

歯肉粘膜フラップは、歯槽骨(歯を支えている骨)から歯肉粘膜を剥離したものです。この歯肉粘膜に薄い切開を加えることでフラップが伸び、穴を覆うことができます。
鼻腔瘻がなんとなくおわかりいただけますでしょうか?見た目にも大きな穴が開いています。

フラップ作成が終わりました。わかりやすいようにピンセットでつまんでいます。

縫合完了です。
術後管理と合併症
基本的には日帰りの手術になりますが、フラップ作成時に出た血が鼻腔瘻を介して鼻にも入るため、手術当日はくしゃみや鼻血が出ます。鼻血が酷い場合は一晩入院する場合もあります。
退院後は1週間ほどエリザベスカラーを装着し、手で縫合部を掻かないようにしていただきます(糸が気になって搔きむしり、糸が取れてしまうことがあります)。
合併症として、縫合部の離開、感染があります。離開に関してはフラップ作成手技に問題がなければほとんど起こりませんが、感染を起こすとフラップの離開だけでなく敗血症にまで至る可能性があるため、1週間は抗生物質を自宅で内服していただきます。
手術時間はフラップの大きさにもよりますが、本症例は左右とも巨大なフラップを作成したため約1時間半かかりました。
ここまでの大きさでなければ1時間以内に終わります。
高齢犬で慢性的なくしゃみや鼻水に悩まされている方、もしかしたらこの病気かも?と思って一度当院へお越しください。