下顎骨片側亜全摘出術

下顎骨とは

下顎結合離開の症例でもご紹介しましたが、下顎骨は左右の下顎骨が口先の真ん中で癒合してできています。

下顎骨や歯肉に発生し骨に浸潤した悪性腫瘍があると、下顎骨ごと切除しなければなりませんが、切除する範囲によっては嚙み合わせが悪くなったり、よだれが止まらなくなったりするのでその適応と範囲は慎重に見定めなければいけません。

口腔内腫瘍(癌)

犬の口腔内腫瘍として最も多いものとしてメラノーマ(悪性黒色腫)があり、続いて扁平上皮癌、線維肉腫、棘細胞性エナメル上皮種と続きます。

猫の口腔内腫瘍は扁平上皮癌が圧倒的に多く、次に線維肉腫が続きます。

いずれにしても骨浸潤傾向が強く、顎の骨ごと切除しなければならないことも多いです。

また、メラノーマに関しては遠隔転移が非常に多く、外科切除後も化学療法(抗がん剤)や放射線治療を組み合わせなければならないことも多いです。

下顎骨切除術(症例)

今回の症例です。

下顎が左にずれてしまい、上下の犬歯が当たってしまい口がちゃんと閉じれず、常によだれが出ている状態でした。下顎を触ると左側が腫れていることがわかりました。

見た目に明らかな腫瘍はありませんでしたが、

レントゲンを撮影すると、左下顎骨の先端から真ん中にかけて骨が溶けており、骨から発生した腫瘍により下顎骨が骨折し、顎がずれていることがわかりました。

参考までに反対側の正常な下顎骨のレントゲンを下に並べています。

本来は生検をしてからの手術が理想的ですが、骨生検により更なる医原性骨折を引き起こす可能性が高いため行わず、左下顎骨の大部分を切除する左下顎骨亜全摘出術を行うことにしました。

切除範囲は赤線の通りです(画像の都合上、右下顎骨に線を引いています)。

ここから先手術写真があります。ご注意ください。

いきなりですが切除後の写真となります。

皮膚は切除せず、下顎骨のみを切除しました。

摘出した下顎骨は病理検査に提出します。

術後の外貌です。下顎骨がなくなったぶん左下の唇が少し内側に入っていますが、よだれが出ることもなく、見た目の変化も最小限にとどまっています。

合併症

下顎骨切除は、その範囲によって術後の合併症が大きく変わります。

今回のように片側のみの場合や、両側でも先端のみであれば大きな合併症は起きませんが、両側の下顎骨の大部分を切除するとよだれの受け皿がなくなるため、常によだれが流れ続け、首の被毛が汚れます。

慣れるまではご飯の飲み込みもしづらくなるため、しばらくは胃瘻チューブなどからの給餌が必要なこともあります。

舌にまで浸潤した腫瘍で舌ごと切除した場合も、胃瘻での生活が必要になります。

本症例は大きな合併症もなく、手術翌日には無事に退院できました。手術時間は1時間程度でした。