犬の中手骨・中足骨骨折について|症例をもとに治療法と注意点を解説中手骨/中足骨骨折

中手骨/中足骨とは

動物を構成する骨には、細かく名前がついています。

中手骨というのは、手の甲の骨です。

犬の橈尺骨と中手骨のイラスト

骨折する頻度としてはあまり多くはありません。

高所落下の場合、その上の橈骨や尺骨(前腕を構成する骨)が折れることのほうが圧倒的に多いです。

非常に細い骨であるため、骨折してしまうと固定が難しく、再骨折のリスクも高いです。

前足の場合は中手骨、後ろ足(足の甲)の場合は中足骨という名前になります。

診断

診断は基本的にレントゲン撮影が主となります。

部位によらず、骨折の場合はほとんど足をつこうとせず、宙ぶらりんになることがほとんどです。

高所から落下し、足が全くつかない場合、骨折や脱臼を疑わなければいけません。

犬の中足骨骨折のレントゲン写真

赤い丸で囲んでいるところが骨折線です。

折れているのが1本で、骨どうしがずれていなければ外固定(ギブス固定)で良いのですが、本症例は折れた骨がずれて下に潜り込んでいたので、手術での整復が必要と考えました。

手術

手術方法は大きく分けて二通りあります。

最も固定力の高いものはプレート固定で、骨の表面に金属製のプレートを当てて固定するものです。

これができれば一番良いのですが、とても細い骨のため使用できるプレートが存在しないことが多いです(プレートが骨の幅を超えてはいけないため)。

そのため、今回は髄内ピンといって、骨の中心に金属製のピンを埋める方法で行いました。

犬の中足骨骨折の髄内ピン手術の様子

鉗子を当てているところが骨折線です。骨どうしがずれて奥に入ってしまっていたので、引っ張って戻したところです。

犬の中手骨骨折の髄内ピン手術の様子

ピンを入れて固定が終わりました。

骨の中にピンが隠れているので、見た目では先ほどの写真との違いがあまりわかりませんね。

犬の中足骨骨折の手術後レントゲン

術後のレントゲン画像です。

1本のみの髄内ピンは弱点の多い固定方法です。骨が曲がる力に対する抵抗力はありますが、骨どうしの圧迫や回転に対しては強度が全くありません。

そもそも中足骨に入れる程度の太さの髄内ピンだと曲がる力に対する抵抗力も少なく、どちらかというと骨がずれないようにアライメントを整えているだけというイメージになります。

そのため、基本的にはギブスによる外固定の併用が必須となります。

ただ、今回は幸いにも他の中足骨が折れておらず、それらがギブスの役割も果たしてくれるため、少し安心です。

私が過去に経験した症例では中足骨(あるいは中手骨)が4本全て折れていることがほとんどで、その場合は固定が非常に大変です。

術後とまとめ

術後はひたすら安静にすることが大事です。

安静といっても全く動かないのは良くないので、ギプス越しに足をついて少しずつ骨に刺激を与えてあげることで骨は回復していきます。

高齢犬でも3~4週間で仮骨が形成されてきます。

本症例でも最初はギプスを装着していましたが、他の中足骨が折れてないのもあって骨に刺激が加わらず、1か月経っても仮骨形成が認められませんでした。

このように固定が強すぎる場合も、骨折の癒合遅延につながります。

そのため、思い切ってギプスを外したところ順調に骨の癒合が進行しました。

当院では中手骨/中足骨に関しては骨の中にピンを完全に埋め込んでしまう方法で整復を行っているため、術後にピンを抜く必要はありません(というか抜くことができません)。

部位によらず、人間と違って指示通りに安静やリハビリができない動物の骨折治療は大変です。

骨折整復手術は骨が折れてからの時間が経つほど困難になります。筋肉が萎縮し折れた骨が元の位置に戻りづらくなり、戻ったとしても萎縮した筋肉のせいで歩行が難しくなるからです。

そのため当院では骨折が判明したら当日か遅くとも翌日には手術を行うようにしています。

脚の痛みがある場合は速やかに動物病院を受診されることをお勧めいたします。