股関節脱臼に対する大腿骨頭骨頸部切除

股関節脱臼とは

股関節は、骨盤と大腿骨が形成する関節です。

骨盤の窪み(寛骨臼)に大腿骨の頭の部分(大腿骨頭)がはまっており、円靭帯(大腿骨頭靭帯)という靭帯でつながっています。さらにそれを覆うようにして関節包が形成され、股関節はちょっとやそっとじゃ外れないようにできています。

股関節が脱臼してしまう要因は、最も多いのが事故で、次に先天性疾患(股関節形成不全など)等です。

股関節が脱臼してしまうと後ろ足の力が体幹に伝わらないため、ほとんどの場合脱臼した方の脚は全く地面につくことができません。また、大腿骨と骨盤が接触することによる強い痛みを感じます。

非観血的整復

治療方法として、脱臼してすぐの場合は外れた股関節を手で整復します。これを「非観血的整復」といいます。

整復するのにも強い痛みを伴いますし、抵抗して力が入っていると全く整復できないので、基本的には全身麻酔をかけます。

脱臼を整復しても、大腿骨頭靭帯や関節包は切れているため、そのままだとすぐに外れてしまいます。そのため整復状態で固定するための包帯(エーマースリング包帯といいます)を巻きます。

この状態で可能であれば2週間ほど固定し、その間に関節周囲の組織が再生して関節強度が増すのを待ちます。その後包帯を除去して関節が外れないことを確認します。

非観血的整復の成功率はあまり高くありません。

一度は整復できても日常生活に伴って包帯がずれてしまい本来の役割を果たせず再脱臼していたり、包帯がきちんと機能していたとしても外したらすぐに脱臼することもかなり多いです。

脱臼を繰り返す場合や、初めての脱臼だとしても時間が経ってしまっている場合、手術が必要になります。

観血的整復(手術)

手術方法は、関節固定術や人工関節置換術、大腿骨頭骨頸切除術(FHNE)などがあります。

人工関節置換術は実施できている病院が全国的に見ても限られていますし、関節固定術も再脱臼の可能性が高いこともあり、手術時間や手術回数の少なさからFHNEを主に実施しています。

大腿骨頭骨頸部切除(FHNE)とは

股関節が外れると大腿骨と股関節が接触することで痛みが出ることは先ほど述べました。

この手術は、その当たっている部分を切除することで痛みをなくしてあげるという手術になります。

赤いラインで切除することで、大腿骨と骨盤が当たることがなくなり、痛みがなくなります。

結局関節がなくなるなら歩けなくなるのでは?と疑問を持たれると思いますが、適切な手術とリハビリを行うことで、骨の間に線維や筋肉で構成される「偽関節」を形成し、3か月程度で普通に歩けるようになります。

ただし正常な関節ではないため、歩き方に若干の違和感が残ったり、脚の長さが左右で若干変わる可能性もありますが、あくまでも見た目の問題ということになります。

繰り返しになりますが、この手術は「痛みをなくすこと」が最大の目的となります。

手術前のレントゲン画像です。向かって左が右足ですが、股関節が脱臼しています。

切除後レントゲン画像です。

きれいに大腿骨頭骨頸部が切除されています。

この手術は以前は20㎏以上の犬では行うべきではないとされていましたが、最近は大型犬でも実施可能というデータが出ています。

私の経験でも、40㎏の大型犬で実施しましたが術後1週間で歩けるようになりました。

術後と合併症

手術後はなるべく早期に歩行とリハビリを開始し、とにかく股関節をしっかりと動かすことで偽関節が形成されていきます。

脱臼から手術までに時間がかかり筋肉量が減少している場合は歩行可能になるまで時間がかかりますが、筋肉量が落ちる前の早期に手術をした場合は術後数日で歩けるようになることもあります。

適切に行えば合併症の少ない手術ですが、大腿骨の切除範囲が広すぎることによる医原性の骨折、逆に切除範囲が少なすぎることで術後も骨どうしが接触し、痛みが持続してしまうことなどが合併症として挙げられます。