犬の前十字靭帯断裂とは?|関節外制動術にて治療を行った症例をもとに治療法を紹介

前十字靭帯とは

前十字靭帯とは膝の関節内にある靭帯で、ニュースでもよくスポーツ選手が痛めたと報じられます。

犬の右膝を前から見た図解イラスト

前十字靭帯は、膝の外側・後ろ側から内側・前側に向けて付着し、脛骨(すね)が前方向に滑らないようにストッパーとして機能しています。

そのため、前十字靭帯が切れるとストッパーがなくなり、脛骨が前方向に滑ってしまい、歩けなくなります。当然ですが切れたことによる痛みも非常に強いです。

前十字靭帯は細かく分けると2本存在し、その片方のみが切れた状態を部分断裂、両方ともが切れた場合を完全断裂と呼びます。

原因

大型犬や過肥(太りすぎ)の犬、運動量が多い犬などは靭帯に強いストレスが加わるため、前十字靭帯が切れやすいです。

肥満傾向のラブラドールレトリーバー

しかしそれだけが原因であれば大型犬がみな靭帯断裂を起こしてしまいますが、そんなことはありません。

近年では、前十字靭帯が断裂する犬は若いうちから靭帯の変性が始まっており、年々靭帯が脆くなっていき、そこに体重や過度な運動が加わることで靭帯が断裂するとされています。

変性というのは遺伝的な側面が強いため、靭帯は左右とも脆くなっていることが多いです。

ということは、片方の前十字靭帯が切れた子はもう片方も切れやすいということになります。

データ的には、片足の前十字靭帯断裂を起こしたわんちゃんは、2年以内に50%の確率でもう片方の前十字靭帯も断裂するとされています。

2頭に1頭って、かなりの確率ですよね。経験的にも、たしかに最終的に両側断裂してしまうことが多く感じています。

診断

基本的には触診で判断できます。

ドロワーサイン(大腿骨と脛骨をもって、前後に滑るかどうか確認する検査)にて陽性反応が出れば、前十字靭帯の完全断裂で確定です。

ただし、部分断裂の場合はドロワーサインが不明瞭だったり、そもそも触診を嫌がってしまうこともあります。

その場合はレントゲン検査を行います(痛みが強すぎてレントゲンが撮れない場合などは必要に応じて鎮静をかけます)。

前十字靭帯断裂した足と正常な足の比較レントゲン画像

ファットパッドサインという膝関節内の炎症を示唆する所見、またこのレントゲンでは脛骨が明らかに前方に滑っているため、ここまでくれば前十字靭帯の断裂が確定できます。

補助的な診断として、メディアルバットレス(膝関節内側の腫脹)、膝関節の伸展痛などがあります。

治療

治療方法は、外科手術となります。

手術方法はいくつかありますが、現在最も多く行われているものは2つあります。

・TPLO(脛骨高平部水平化術)

前十字靭帯が切れると上述のように脛骨(すね)が前方に滑ってしまいます。

この手術は、脛骨を半円状に切断し、足の角度を変えることで脛骨が前方に滑らないようにするものです。

TPLO(脛骨高平部水平化術)の図解イラスト

この手術は術後の回復が早いというメリットがある反面、特殊な器具を使うため手術費用が高額となり、さらに骨切りを行うため手術侵襲が高いというデメリットも存在します。

・関節外制動術

切れてしまった前十字靭帯の代わりとなる人工靭帯を膝関節の周囲に巻き付け、関節の安定化を図る手術です。

術後の回復はTPLOに比べると遅いですが、手術費用が安く、骨切りしないため手術侵襲も低いことから、当院では基本的にこちらの手術方法を採用しています。

以下、手術写真があります。

手術中の膝関節と断裂した前十字靭帯

膝関節の写真です。ピンセットで持っているのが、断裂した前十字靭帯です。

断裂した靭帯から痛み物質と呼ばれるものが放出され、それが痛みの原因となるため、断裂した靭帯は根こそぎ切除します。

また、この際半月板も損傷している場合があります。その場合は半月板も除去します。(本症例も半月板を損傷していましたが、膝関節の奥深くにあるため撮影はできませんでした)

半月板は本来膝関節のクッションとなるため必要な組織ですが、半月板がなくなることにより機能的な問題や痛みが現れるのは切除後20年後以降といわれています。

犬の場合はそれよりも先に寿命を迎えるため、損傷した半月板で痛がるくらいなら切除してしまったほうが良い、というのが現在の獣医学の方針となります。

前十字靭帯を除去している手術中の様子

前十字靭帯を除去しました。

その後関節包(関節を包んでいる膜)を縫合し、その周囲に人工靭帯を設置していきます。

前十字靭帯断裂で人工靱帯を設置している様子

人工靭帯を設置しましたが、透明なのでよく見えませんね。

手術後は関節の腫れをおさえるための包帯(ロバートジョーンズ包帯)を巻き、2日程度入院となります。

まとめ

TPLOの場合、骨切りをしてプレートで固定しますが、プレートが感染して骨融解を起こしたり、プレートが緩んでしまうことリスクがあります。

関節外制動術も同様に、人工靭帯が感染してしまうリスクはあります。

どちらの手術にせよ、整形外科の手術はインプラントを多用する以上、常に感染との闘いになります。

どれだけ清潔な手術を心がけても、一定の確率で手術部位感染(SSRI)は起きるとされています。

インプラントが感染してしまった場合、抗生剤を使っても菌は消えないので、インプラントは除去しなければなりません。

前十字靭帯断裂は比較的遭遇率の高い病気です。放置すると脚の筋肉が萎縮し、術後の回復が大きく遅れます。

当院では即座に手術ができるような態勢を整えておりますのでご安心ください。